第4回 練習時間の半分以上を「泳ぎを直す」ために使う

2017/11/28

対談_柿添・浜上

前回平野さんとのインタビューの中で帝京大学の水泳部の話が少し出て、そこで、今年の頭ぐらいからトレーニングのやり方を根本的に変えたとお聞きしました。柿添くんが34歳になってから競泳の自己ベストを更新するという気持ち悪い現象を目の当たりにして、その方法を取り入れてみようということで、トレーニングの内容を変えたという風にお聞きしました。

【浜上洋平】対談記事公開スケジュール

11/25 第1回 筑波大学水泳部から帝京大学の助教に
11/26 第2回 水泳部コーチ就任後最初の改革
11/27 第3回 「泳ぎを直す」ためのアドバイスの四段階
11/28 第4回 練習時間の半分以上を「泳ぎを直す」ために使う
11/29 第5回 指導者の意識の改革
11/30 第6回 技術中心の指導へのシフトの成果
12/01 第7回 大学運動部のリクルートのあり方
12/02 第8回 自分の身体を自由にあやつる

練習時間の半分以上を「泳ぎを直す」ために使う

川口
前回平野さんとのインタビューの中で帝京大学の水泳部の話が少し出て、そこで、今年の頭ぐらいからトレーニングのやり方を根本的に変えたとお聞きしました。柿添くんが34歳になってから競泳の自己ベストを更新するという気持ち悪い現象を目の当たりにして、その方法を取り入れてみようということで、トレーニングの内容を変えたという風にお聞きしました。

そこでトレーニングのやり方を変えたというのは具体的にどこをどう変えたのでしょうか? ここまでの話をまとめると、これまではあくまで生理学的なトレーニングをやらせていて、そこで見ていて気付いた点をコメントしていただけだったのに対して、今後は生理学的なトレーニングとは別に「泳ぎを直す」ためだけの泳ぎをさせる時間を作ったということでよいのでしょうか?

浜上
そうですね。一番変化したのは、おっしゃる通り「泳ぎを直す」ために割く時間をとてつもなく長くとるようになった点です。
川口
昔は何%ぐらいを「泳ぎを直す」時間に割いていて、今は何%ぐらいになったのでしょうか?
浜上
昔は、例えば、5000メートルのメニューの場合、気をつけて泳ぎを直しましょうという時間はそのうちの400メートルだったり、800メートルだったり、その程度でした。つまり10%程度です。今はもう準備期は50%以上の時間を「泳ぎを直す」ことに割いています。

昨年の12月中旬あたりに生理学的にきついメインの練習をさせていたときに、これで本当に速くなるのだろうか、この子たちの可能性を最大限まで引き出せているのだろうか、ということでふと迷いが生じたのです。みんなでゼーゼーハーハーやっていて、本当に雰囲気は良かったのですが、本当にこれで上のレベルのスイマーに勝てるようになるのだろうか、と思ったのです。

そこで柿添さんと話していたことを思い出したのです。がむしゃらに汚い泳ぎでひたすら頑張っている彼らの、この泳ぎ方を変えることのほうが、生理学的なトレーニングよりも優先されるべきなのではないか、とそのときハッと思ったのです。その先のトレーニングプランも全部立ててあったのですが、その日の夜に文字通り全部廃棄しました。そして、とにかく「泳ぎを作る」時間を、1回の練習で最低1時間、2時間中1時間以上、そちらの時間に割くというのを3カ月やりました。「泳ぎを直す」練習だけで終わる日もありました。

方法を変えて生まれたメリット

対談_柿添・浜上

川口
そうすると、単純に泳ぎを見られる人数も一人あたりに割ける時間も数倍になるわけですよね。やらせてみて、コメントして、もう一回やらせてみて、さらにコメントしてというのを繰り返せるようになるわけですよね。
浜上
そういうメリットに加えて、きつい練習じゃないので体力的な余裕が生まれて泳ぎに集中できるというメリットもあります。5000メートルきつい練習やりながらその中で400メートル泳ぎを直すのと、今日の練習はもう泳ぎを直すことだけやるぞということで2時間やるのとでは、集中力が違うわけです。そういうメリットのほうが、大きかったと思います。

最初、選手たちにトレーニングの改革をすると説明するときには本当に気を使いましたね。彼らも、長い子では20年弱とか、競泳の練習をしてきた子もいるわけです。その競泳人生の中で一度もこんな練習をやったことがないわけです。だから、なんでこういう練習をしなきゃいけないのか納得させるために、頑張って説明しました。