第8回 自分の身体を自由にあやつる

2017/12/02

対談_柿添・浜上

最後に、体育学を専門とされているということなので、おそらく水泳以外の競技の状況や、あるいは大学以外の場でのスポーツの状況に関しても、ある程度ご存じだとは思うのですが、同じような問題って水泳以外の競技でもやっぱりあるのでしょうか?

【浜上洋平】対談記事公開スケジュール

11/25 第1回 筑波大学水泳部から帝京大学の助教に
11/26 第2回 水泳部コーチ就任後最初の改革
11/27 第3回 「泳ぎを直す」ためのアドバイスの四段階
11/28 第4回 練習時間の半分以上を「泳ぎを直す」ために使う
11/29 第5回 指導者の意識の改革
11/30 第6回 技術中心の指導へのシフトの成果
12/01 第7回 大学運動部のリクルートのあり方
12/02 第8回 自分の身体を自由にあやつる

自分の身体を自由にあやつる

川口
最後に、体育学を専門とされているということなので、おそらく水泳以外の競技の状況や、あるいは大学以外の場でのスポーツの状況に関しても、ある程度ご存じだとは思うのですが、同じような問題って水泳以外の競技でもやっぱりあるのでしょうか?
浜上
トレーニングの内容に関しては、先ほど柿添さんがおっしゃったとおりあまりオープンにされてないところが多いと思います。こういうトレーニングしているからおいで、ではなくて、うちはこんなに強いからおいで、という所が多いと思います。
川口
大学自体もそうですからね。東大の教育内容がいいから東大行くのかっていうと、そうではなくて、単に東大強いということになっているからみんな行っているだけですので。
浜上
それを上回る魅力をアピールしていけたらいいとは思いますね。
川口
大学と違ってアウトカムがはっきりしていて即座に出るのでやりやすいと思いますよ。大学の場合、何が大学の教育のアウトカムなのかよくわからないし、即座に出るわけではなくて、30歳時点での年収や生涯年収になってしまうわけです。そうすると成果を測定するのがすごく難しくなるのですが、スポーツの場合であれば、その問題はないですよね。まずは、成果を可視化してホームページに掲げるというのを地道にやってみるとよいのではないでしょうか。トレーニング内容を変えてすぐにみんなのタイムが上がったというのと同じように、すぐに来年、もしかしたら見た人の中から帝京大学を受けてくれる人が実際に増えるかもしれませんよ。
浜上
ただ、そこが第一目的なわけじゃないですけどね。やっぱり目の前にいる学生たちを限界まで伸ばしたいっていうのが大前提です。初心者が入ってこようがトップ選手が入ってこようが、究極的なところ僕は気にしていません。初心者が初心者なりに、トップ選手がトップ選手なりに、自分の限界まで持っていくための一つの方法として、今、新しい方法に挑んでいるということなのです。
川口
なるほど。僕みたいな運動神経の悪い人でも楽しめる大学の運動部がもっとあったらいいなあと思います。
柿添
前に1回、浜上くんに聞いたときは、レベルを上中下に分けると上と下はすごい伸び率が良くて、中が比較的伸び率が良くなかったということだったのですが、結局、夏まで見て、トータルとして、どういう結果になりましたか?
浜上
関東学生選手権と日本学生選手権での成果にもよるのですが、今の印象だと、意外なことに、上のほうが効いているようにみえます。12月から3カ月間、最低1時間、自分で考えて泳ぎを作るっていうのをやってきたわけですが、その期間の中で自分の泳ぎを変えて、無意識にパフォーマンスとして発揮できるっていうレベルまでいく選手はそもそもレベルが高いということなのでしょう。一方、初心者レベルの子たちは、極端に言うと何をやっても伸びるので、この方法が一概に効いたかどうかっていうのは分からないのですが、結果自体は出ています。

問題は中位の人たちです。彼らが上の人たちほど結果が出なかったのは、もしかしたら、3カ月間、1時間の泳ぎ改善のための練習ではまだ足りなかったのかもしれません。あるいは、そういう意識づけが弱かったのかもしれません。その辺りを今から吟味したいと考えています。いろいろ理由あると思うのですが、上の子はやっぱり器用なのですよ。自分がこう動こうと思ったら、そういう風に動ける。そのぶん、短時間でうまくなっていくというのがこの結果に表れていると思います。

下手な動きを繰り返せばどんどん下手になる

対談_柿添・浜上

柿添
武井壮が散々言っているけど、自分の体を思いどおり動かせるかどうかにかなりの個人差があって、多くの人はそれができない、それのやり方が分からない、ということなのだと思います。身体に対してただまっすぐ水をかきなさいっていうことすらできないという子たちがまだたくさんいると思います。その部分の問題が如実に出ちゃったのでしょう。僕の見解だけど、そうなると、水中での動き以前の問題として、自分の身体を思いどおりに動かすためのトレーニングをもう少し入れてあげる必要があるのだと思います。それは陸上でやればいいのですよ。そういうトレーニングを入れていかないと中級レベルぐらいの子たちはなかなかうまくなっていかないかもしれません。
浜上
今の話を聞いて思い出したのですが、12月の中旬にメニューを変えたときに、泳いでいる状態で直すのが難しいというのはすぐに気づいたのです。だから、最初、陸に上がった状態でまず理想の動きを実現しなさいということを言いました。まずはゆっくりとした動作で、それができたら次第にスピードをあげてやっていきます。陸上で理想の動きができるようになった段階で水中に入って実際に泳いでみます。これもゆっくりしたスピードから始めます。で、次に水中で速く動きながら理想の動きを再現します。このステップは踏ませましたね。その3カ月間は頑張る練習もやっていたのですが、そのときは自分の専門種目以外でやらせていました。泳ぎを変えている最中の自己専門種目ではなくて専門種目外で泳ぐ、あるいは、陸上の追い込む練習で代用しました。
柿添
練習は繰り返せば繰り返すほどその動きが定着するから、できてもいない段階で速く動かして繰り返したら当然下手な状態で定着してしまうのですよ。それを自分の専門種目でやっちゃうと、汚い泳ぎが定着してしまうという問題があると思っています。だから、生理学的なトレーニング自体は当然大事なので、できる限り自分がやりたい運動と違うところで、それを補完するっていうかたちでやるのがいいかなと思います。そしてある程度技術の改善、定着がなされた後、その技術を維持したまま耐える能力を自分の種目でじっくり3ヶ月程度行うというのが僕の考えです。多分、運動に関するセオリーとしてはこれもある程度正しいのではないかと思っています。
川口
いいですね。いろんな問題があり、解決された問題があり、まだ残っている問題があり、それに対する新しい解決策のアイデアもあり、という感じですね。また、じゃあ1年たった時点でどうなっているかが楽しみですね。なにか最後に言い残したことはありますか?
浜上
一年中きついことばかりやるのが嫌でバーンアウトしちゃう高校生を本当に多く見てきました。それだけじゃないよ、それ以外の方法でも速くなれる可能性があるよ、ということを高校生に伝えたいと思います。
川口
分かりました。今日はありがとうございました。

(了)